「戦わずして戦いを収める」日本の知恵
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文明間の対立と不調和そして弱肉強食化

2001年9月11日の惨劇以降、世界はキリスト教対イスラム教の宗教対立の側面を見せながら、基本は力を持つ国と持たざる国の対立の図式が先鋭化している。また改めて言うまでもなく、1997年12月の京都会議で出された地球温暖化防止に向けた国際協調の議定書は、米国の離脱と「発展途上国」の中国が対象外であることから、実効力は限られている。
日本国内に目を転ずると、経済のあらゆる局面で資本力の大きな事業者が小さな事業者を潰し、1社残って99社が潰れると言う弱肉強食が徹底的に進行している。東京だけが幾分元気があって、その他の地域は総崩れとの現象がこれを象徴しているが、日本は今や圧倒的多数が敗者とならざるを得ない社会となっている。

日本では古代から持続的で平和な社会を維持
わが国の縄文文化は1万2〜3千年以上前に始まっており、縄文式土器は世界最古の土器を代表するものである。出土品の付着物から縄文時代の日本人が出汁(だし)を取る豊かな食文化を持っていたことを示している。
また5.5〜6千年前から数千年続いた三内丸山遺跡は、出土物から日本各地および大陸との交易を行ったことが分かっており、数百人規模の交易型の定住集落があったことを示している。
木と土を基本とし、文字を持つ必要のなかった持続型文明である古代の日本文明は、リサイクルを繰り返す為にまとまった遺構として発見し難かった。
近年の同位炭素年代法等の技術の進歩による出土物の年代測定や、巨木列柱が示す宗教観、およびDNA解析技術の確立から、稲作以前の農耕と言える大規模な人工栗林等の発見等が、縄文文明の世界的重要度が上がっている。

三内丸山遺跡
出雲大社の意味
日本の古代王権は大和を中心に統合されたが、権力闘争により滅ばした勢力の霊を鎮める為に出雲大社が造られた。
この出雲大社は伊勢神宮よりも大きく(高さ48m)立派な社を持っていた。また暦の11月を全ての神が出雲に集まる月とした。
これらは縄文文明に端を発する日本文化独特の怨霊信仰の表れであり、恨みを持って死んだ人間を畏れるこの心性が、過度の闘争を抑える働きをもつものと理解される。
日本人のDNAからは、北方、南方、西方からと、時代を超えて、様々な人々が日本列島に流れ込んで来たことが解明されており、極東の島国で「競争、遠慮、共生」の生物共存の原理が上手く働いたことが想像出来よう。
いずれにしても八百万(やおよろず)の神の存在を前提にしているからこそ、自分の祖先神も相対化して見ることが出来る日本文化が醸成されたと考えられる。

以和為貴
これらの気風は「17か条憲法」の有名な書き出し「以和為貴(和を以って貴しと為す)」が示すように、国政レベルに於いても対立を好まず調和することを第一に重視することが意図されている。
その為には相互の意見の調整を図る努力と同時に、神託を得る為の占いが重視された。これも今日の合理的な理解からは、調整不能のものを神の力を借りて裁定を下す、高度な調整方法とも理解できる。
縄文時代の竪穴式住居は、東北地方の民家の基本として根強く昭和時代まで残ったが、それ以上に「以和為貴」の気質は、明治時代に「和魂洋才」として近代化策が採られてもなお、日本の普遍的な心性として残り、今日の日本文化の深層にも確実に流れている。

和を乱せない
一方、同じことが日本文化の弱点ともなっている。「和を乱すこと」を避ける性向から、大勢に異を唱えることが困難となってしまう。大勢の判断が違っていることが見えても、敢えて反対が出来ない。大勢に依存する傾向が出ることも否めない。自分で考え自分で判断することに貪欲ではない。その結果、間違った判断に基づく計画でも修正されることなく、実行に移される可能性が高くなる。

和して同せず
また「以和為貴」の気質を持つ日本人は相手も同じく和を重視すると思いがちである。しかしながら日本人以外の相手は、和を望むより自分の主張を通すことを優先させる場合が多い。こうした場合日本人は、なかなか相手の主張を正面から否定できず、その場での論戦を避ける傾向が強い。これが誤解を生む場合も多い。
これだけ世界が狭まり、まったく心性の異なる人々と共に生きる時代になり、日本人には「和して同せず」の言葉の通り、違いを認めながら「和」する術を磨くことが求められる。その為には自分の五感で感じ自分の頭で考え、自分がその結果を引き受ける思考方法の徹底化が求まられよう。

戦わずして戦いを収める
こうしたパワーアップが実現すれば、多様性を認め対立を避け調和を求める日本文化こそが、対立の深まる21世紀の希望なのである。
ここに格好の例がある。物販の世界に於いては、効率的な大型店舗での集中販売に勝るものはない。これに対して非効率的に見える文房具店のネットワークで包み込み、米国からの大型店舗の進出を防いだアスクルの例は、日本ならではの「戦わずして戦いを収める」好例と言えるだろう。(参照:持続可能な日本型システムを求めて
これは日本人が自分の頭で考え自分で判断し、敢えて正面から「戦わず」、相手の鉾(ほこ)を収めさせた成功のモデルであろう。
(2004年8月、2006年11月一部加筆修正)
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